月一度のお墓参りを欠かさないご主人のために、
今朝も早く起きてお弁当を作ったお婆さん。
お弁当を小さなリュックに詰めながら独り言・・・。
「いくら定年退職したからって、こうも欠かさず
月に一度のお墓参りとはねぇ・・・。
やっぱり年をとったのかしら・・・。
さてさて、私はどこへ出かけましょうか・・・。」
そこへ起きてきたご主人が告げました。
「おい。今日はお前も一緒に行ってくれないか?頼むよ!」
「えっ?私もですか?
だってお弁当一人分しか作ってないですよ。」
するとご主人。
「弁当?二人で半分づつ食べればいいじゃないか。
こんな言葉があるぞ。
奪いあえば足りないが、分け合えば足りる。
二人で分け合えばたりるさ! さぁ、行こう!!」
ご主人にせきたてられて、お婆さんも重い腰を上げました。
電車とバスを乗り継いでのお墓参りです。
町を離れるとそこは別世界。
自然豊かな小高い丘にお墓はありました。
「わかった!あなた本当はお墓参りじゃなくて、
ピクニック気分で来ているのね。」
「いいじゃないか。お墓参りには違いないのだから」
お参りを終えると、お墓の前に腰を降ろして
お弁当を開きました。
「俺はね。お墓にくると生き返るんだよ」
「生き返る?!」
「そう、生き返る!!死んだ親父やおふくろが
俺に呼びかけるんだ。
定年退職したからといって、ブラブラするなよ!
人生に余裕などないぞ!
余った人生などないんだぞ!!
って叱ってくれるのだ。
ときどき、おじいさん、おばあさんの声も聞こえるよ。
だから墓はね、
俺にとって死んでしまった人と出会える
とても大事な場所なんだよ!!」
「へぇ!知らなかった。
定年退職した人にしてはガッツがあって、
あれこれ積極的によくやるわと思っていたら、
その秘訣はお墓だったの!へぇー・・・」
「それに、こここそ、俺の生命の落ち着き所
だと思うと、何だか嬉しいのだよ。
俺の魂の落ち着き所がちゃんとあると思うと、
逆に生きることが楽しくて、
嬉しくてしかたないのさ!」
「へぇー・・・・・そうなの・・・・・へぇー・・・・」
不思議そうにあいづちを打つお婆さんに
ご主人が突然、言いました。
「この世で縁あって夫婦になり、生きあった者同士だ。
もし望むなら、骨になっても俺とずっと
一緒にいてくれないか?頼むよ」
お婆さんはしばらく黙って、
ご主人の言葉をかみしめました。
・・・・四十年前・・・・・
このご主人は同じように
「もし望むなら、俺とずっと
一緒にいてくれないか?頼むよ」
とプロポーズしたのです。
今違うのは「骨になっても」の一語だわ。。。。
ご主人の声です。
「おい、どうなんだ!?」
「はい!ご一緒にいさせてください・・・。
アッハッハ。
お墓の前であなたから
二度目のプロポーズを聞くとは思わなかった・・・。
そうでしょ。二度目のプロポーズでしょ?」
「まぁ、そんなところだ・・・・」
「ウフフフ・・・・」
お墓の中からも笑い声が聞こえたようでした。